見えないはずの盲点(BlindSpot)で見える仕組み

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はじめに

予測できそうでできなかった奇抜なアイデアを目の前にした時、「それは盲点だった!」という言葉の表現が使われるのを耳にしたことがある方は多いでしょう。ここでの盲点は、“気付きそうで気付かなかった見落とし”という意味合いでの比喩表現として使われていることでしょう。この比喩表現は、人間の目に本当に存在する盲点という部位の名称に由来することは多くの人が知っていると思います。この記事では、この盲点という部位の面白く素晴らしい性質について見ていきましょう。

盲点とは

私たちは、目に入ってきた光を網膜(目の最も奥にある部分)で像を結ぶことにより外の世界を“見る”ことができます。網膜には、光を感知するための細胞(視細胞)がぎっしりと並んでいます。例えば、物体の動きや明暗に敏感な反応を示す桿体細胞や色に反応を示す錐体細胞です。錐体細胞は、さらに光の波長帯ごとの感度によってL錐体M錐体S錐体の3つの種類にわけられます。(L錐体、M錐体、S錐体はそれぞれ赤、緑、青に反応すると考えるとイメージしやすいかと思います。)

これらの網膜上の視細胞は、光を受け取って電気信号に変換し、網膜における情報処理の最終段階である神経節細胞からでる神経繊維を通して信号を脳に伝えるます。この神経繊維は束となって網膜の中心から少し鼻の方にずれた位置から脳に向かって出ていきます。この部分には、約100万本の神経繊維が集まっており、光を感知するための細胞(視細胞)が存在しません(視神経乳頭)。つまり、網膜上のこの部位では見ることができないのです。この網膜上の領域が盲点です。

盲点はその発見者の名をとってマリオット盲点と呼ばれることもあります。

blindspot

頭上から見た盲点位置blindspot

盲点を感じる

盲点が生じるメカニズムをここまで説明してきました。
ただ、盲点があると言われても、自分で盲点を確かめられないならその存在を認めがたいですよね。でも心配はいりません。結構簡単に盲点の存在を確認することができるのです。

左目を閉じて、下の画像の十字マークをじっと見てみてください。
そのまま、顔を画面に近づけたり遠ざけたりすると星マークが突然消えて見えなくなるところがあるはずです。これが盲点です。星マークは視界の中にあるにも関わらず見えなくなるのです。意外と盲点は大きくてすっぽりと消えてしまいます。

盲点の存在は確認できましたが、ここで1つの疑問が浮かび上がります。なぜ、私たちは普段の生活で全く盲点の存在に気づかないのでしょうか?よく考えてみれば、盲点があるということは視野中に全く見えないところが存在するはずなので下図の右のように見えるはずです。

では、なぜ私たちは普段の生活で全く盲点を意識することなく見ることができるのでしょうか?

盲点充填 (filling in)

普段の生活で盲点が知覚されないのは、盲点に当たる部分の視覚情報が脳によって書き換えられているからだと考えられます。このメカニズムとしては大きく2つ考えられます。

・左右眼の相互補完による充填

人間は、左右に目があります。左右の目には、それぞれ盲点が存在しますが、視覚情報を捉える空間で考えると、各盲点が対応する空間は異なります。つまり、左目の盲点に対応する視覚情報は右目から補完してあげればいいのです(逆も然りです)。

・生成的な充填

しかし、ここで疑問が浮かび上がります。
私たちは片目で見たときにも盲点に気付くことはできません。
この場合には、
(1) 盲点周辺の視覚情報をもとにそれっぽい像を生成しているパターン
(2)これまでの経験に基づく事前情報をもとに生成しているパターン
(3)その両方を使っているパターン
が考えられます。
コンピュータービジョンの観点からも、近年のニューラルネットワークの学習により、画像生成に関する様々な課題において、像の生成が可能であることがGAN(Generative Adversarial Network)などの研究で示されています。

これら2つのメカニズムは、神経回路のレベルにおいても以下のようなことが知られています。まず、左目のケースで説明します。
左目網膜上の盲点に対応する視覚皮質V1の領域は、左目網膜上の盲点周辺からの投射に加え、反対目である右目の網膜上において左目の盲点位置に相当する領域からの投射を受けます。右目の場合も同様です。この詳細については次の段落で説明します。

視覚システムがこのような充填機能をどのように担っているのかは非常に興味深いです。何と言っても驚くべきは無意識的にこの処理が勝手に脳内で行われていることです。

盲点に対応する視覚皮質の応答

盲点は、像が充填される脳の働きのおかげで私たちは普段その存在に気づかないことがわかりました。ただし、充填が起こる背景には、脳の中では、その充填に対応する神経細胞の活動が存在することも同時に示しています。この盲点充填における神経メカニズムについて説明します。

網膜上の視細胞によって外界からの刺激を電気信号へと変換し神経繊維を通して脳にその信号を送ります。このとき、網膜上での刺激の位置関係(トポロジー)は保持されたままV1(第1次視覚皮質)に投射されます(レチノトピー)。(りんごの右にみかんがあったならばその位置関係が保たれたまま脳に信号として送られる)。つまり、網膜上で盲点周辺の視細胞から送られてきた信号は、V1においても盲点に対応する皮質部位の周辺に投射されることになります。

実際には、網膜上における盲点部分では一切光を感受していないのでV1に投射される信号も存在しないはずです。しかし、盲点周辺の視覚情報に基づいて盲点内の充填内容が決まるとき、あたかも本当にその充填内容の刺激が網膜に呈示されたかのように、盲点に対応するV1上の細胞も発火することが分かっています。

つまり、V1に到達したときには既に、存在しないはずの盲点部分の視覚情報が充填されており、あたかもその充填された視覚像を網膜で感受したかのようにV1に投射されるのです。これによって、私たちは盲点の存在を気付くことなく普段の生活が行えるのです。

損傷に伴う盲点

これまでの話から、盲点に関して重要なメカニズムとして2つのことを整理しておきます。

1つ目に、 網膜上で光を感受できない部分は盲点となり、盲点は充填されて知覚される。→これは、裏を返せば、盲点部以外でも網膜の一部が損傷しその部分で光が感受できなくなるということは、後天的に盲点のような部位が生じることを意味すると考えれらます。

2つ目に、盲点の充填が知覚されるのは、視覚皮質(V1)においてあたかもその充填結果を網膜で感知したかのように神経細胞の発火が起こるからである。→こちらも、裏を返せば、視覚皮質(V1)が損傷し充填結果を表現するような発火が起こらなければ充填による“見た”という感覚は知覚されない。

つまり、損傷における盲点が生じるケースとしては、網膜上の損傷によって起こる場合視覚皮質上における損傷によって起こる場合の2ケースが考えられます。しかし、これらそれぞれのケースに関して、驚くべきことが研究により分かっています。

・網膜上の損傷によって起こる場合

網膜部が損傷するとその損傷部に位置する視細胞は光を感受できなくなるため、視界において損傷部にぽっかりと穴が空いたように知覚されてます。

しかし、驚くことに網膜の損傷により視覚情報の一部が失われた場合にも、時間の経過とともに視覚情報の損失部への充填が起こることが知られています。

網膜からの信号は、網膜上の視細胞→外側膝状体→視覚皮質へと伝わっていきます。網膜の損傷がおきた直後では、その損傷部位に対応する網膜上の視細胞から信号を受け取っていた外側膝状体の領域も受け取る信号がなくなり活動が止まり、さらに、その領域に対応する視覚皮質の領域も活動が止まります。

しかし、しばらくすると、この外側膝状体の領域は活動を停止したままであるのに対して、対応する視覚皮質の領域は外側膝状体の停止領域周辺からの軸索で結ばれ信号を受け取るようになり、再び活動を始めるのです。これによって、網膜上の損傷部位における充填がおき損傷部位に気づかなくなるのです。

(Darian-Smith, Gilbert, 1995)

・視覚皮質上における損傷によって起こる場合

網膜が正常であるにも関わらず、それに対応する視覚皮質で損傷が起きると見える感覚を知覚できなくなります。
しかし、サルの実験において、損傷後しばらくする(約10日)と視覚皮質の損傷部に信号を伝えていた神経繊維は、損傷部周辺の皮質領域に軸索を伸ばし網膜からの信号を伝えることで情報を処理するようになることがわかっています。これによって、対応する網膜部で感知した光刺激を再び知覚することができるようになります。

人工盲点

最初に提示した盲点の定義としては、網膜から脳に向かう神経繊維の出口にあたる部分となっていました。この盲点の位置は視野範囲でいうと周辺視にあたります。

しかし、以下の方法で、中心視に近い領域でも人工的に盲点のような現象が発生することが知られています。

① 砂嵐(スノーノイズ)を写したディスプレイ上に、円形を提示しそこから少し離れた位置に正方形を提示する。
②円形を10secほど固視する。
③すると、視界から正方形が消失してしまう。

この現象は、正方形のエッジをや特徴を抽出する神経細胞の反応が、周囲の過剰な刺激により疲労するため知覚できなくなったと考えられます。
結局、外界は光の感受により知覚できるかどうかが決まるので、
盲点の場合は、光の感受機能が存在しないことによる知覚の消失
人工盲点のの場合は、光の感受機能は存在するもののその機能が役割を果たさないが為に起こる知覚の消失と考えられます。

今後に向けて

・盲点における充填メカニズムを生成モデルと関連づけて考えてみる。

参照

  1. Darian-Smith C, Gilbert CD (1995) Topographic reorganization in the striate cortex of the adult cat and monkey is cortically mediated. J. Neurosci. 15, 1631–1647
  2. Newsome WT, Wurtz RH, Dursteler MR, Mikami A (1985) Punctate chemical lesions of striate cortex in the macaque monkey: Effect on visually guided saccades. Exp. Brain Res. 58: 392–399.
  3. 人工盲点でも見えない情報を補う http://web2.chubu-gu.ac.jp/web_labo/mikami/brain/22-01/index-22-01.html
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